まつやま書房TOPページ>Web連載TOPページ>流辺硫短編小説集②「塔」 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
10/13(2010.10.20更新) |
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塔写真撮影者:らら(photost.jp) |
(5) 名古屋のインターで高速を降り、県道を西に進む。いつもはちょっとでも安く済ませるために手前の岡崎で降りて国道一号線を通っているが、ついつい乗り続けてしまった。 広い一般道は混みあうことで有名な道なのだが、さすがに深夜という時間帯は、その一直線に東西に伸びる道に、車たちをはべらせていない。 名古屋駅に近づくにつれ、灯りが増えてゆく。車は、名古屋駅に突っ込んでいくように進んで行っている。 貴夫の実家は名古屋駅に程近いところにある。東京周辺に住んでいると感覚が狂ってしまうが、首都圏以外であれば、たとえ県庁所在地といえどもちょっと中心から離れればすぐに住宅地となる。 不意に後ろの席から、あっ! という呟きのような声が上がった。 貴夫がバックミラーを見ると、達矢がじっと前面を凝視していた。その前方には、大きな塔が、きらびやかにライトアップされ、鎮座している。 名古屋のテレビ塔。 大きな通りを見下ろすように、塔はそびえている。東京タワーよりも低い塔だが、東京より邪魔する高層ビルが少なく、道が広くて真っ直ぐなので、こちらの方が鮮明に目に飛び込んでくる。 バックミラーをちらちら見るが、達矢は変わらず口をグッと結び、塔を見続けている。 あの塔も、達矢が小さなとき、お気に入りの景観の一つだった。 その頃を貴夫は思い出す。実家に向かうときに塔が目に入ると、 「塔だ!」 とはしゃぎ、帰りは悲しさからか、塔を見ながら悲しみ、時には泣き出すこともあった。 いじめでも体の痛みでもない、繊細な感情から湧き上がってきた涙。わが子の、その涙を落とす様を見ることの、なんと切なく、愛くるしく思ったことか。 貴夫も達矢と同じように口を結び、塔に向かって行くように車を進める。 「そうだよなぁ……」 後ろから呟きが聞こえた。 |
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