まつやま書房TOPページWeb連載TOPページ>流辺硫短編小説集②「塔」
5/13(2010.10.20更新)



塔写真撮影者:らら(photost.jp)



 達矢は、入学したてのリクリエーションの段階で躓いた。

 数日間という期間の中、自然と数人のグループができていくのだが、達矢はそこで、どこにも入り込めなかった。気取っていた訳でも相手を選り好みしていた訳でもなく、特に何の理由もなく、ただなんとなくそうなってしまった。本当にちょっとしたタイミングで、声をかけたりかけられたりのきっかけが、気後れや遠慮といった小さな理由でずれ、掴み損ねてしまったのだ。

 その時は、達矢自身まったく気にかけなかったらしい。しかしそれが後々、大きな問題となってしまった。

 入学早々、授業や学食で孤立した。そんな環境は生まれて初めてだった。それが影響し、普段はそれほど消極的ではなかったのに、サークルの加入にもアルバイトにも二の足を踏んでしまった。そして入学して半月、まったく知り合いがいない状態となってしまったのだった。

 本当に、きっかけとも言えないような些細な出来事での躓きだったが、順調に人生を過ごしてきた者にとっては、免疫がないので対処方が分からなかった。理由が理由なだけに、貴夫たち両親はそれほど重大には考えず、ちょっとした五月病のように思っていたが、意外にも長引いてしまい、既に引き篭りは一年を越えている。




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