まつやま書房TOPページWeb連載TOPページ>流辺硫短編小説集②「塔」
6/13(2010.10.20更新)



塔写真撮影者:らら(photost.jp)



 当の本人もそうだろうが、貴夫自身も戸惑い、持て余していた。達矢本人は悩んでいるのだろうが、昼夜逆転しての非生産的な生活をしている息子を見ていると、とてもそれが苦しんでいるようには思えず、しばらく静観してあげようという気分になどとてもならない。そうかといって、甘ったれるな! と強引に引っ張り出すのも躊躇われる。強硬な態度がその後長くこじれてしまいかねないし、飛び出して行かれて犯罪など起こされたらそれこそ取り返しがつかない。一人息子の一大事にそんな一か八かのことはできず、結局は腫れ物を触るように動きが取れず、いたずらに日だけが過ぎていってしまうのだった。

 それまでの貴夫の人生の中で、こういった問題は、自分の周囲なりテレビや新聞なりでいくつも耳に入ってきていた。その都度、どうして皆子供のことなのに手をこまねいているのかと、それらの人々を不甲斐なく思っていた。専門家や経験者に相談するなり、何かしらの手を打てばいいのに、と。だが自分の身に起きて初めて、そんなものは他人事の考えだと、あらためて思い知った。実際自分の身に起こってみると、他人にさらけ出すのも憚られ、かといって自分自身で状況を切り拓いていくこともできず、もどかしい日々を送るよりないのだ。




◎→次へ◆○