まつやま書房TOPページ>Web連載TOPページ>流辺硫短編小説集②「塔」 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
7/13(2010.10.20更新) |
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塔写真撮影者:らら(photost.jp) |
まだ貴夫の母親の意識がしっかりしている頃、彼女にとって孫にあたる達矢のことをひどく心配していた。貴夫としても、寝たきりになった母親に心配はかけたくなかったのでなんとかしたかったが、彼一人で状況を好転できるわけもなく、母親に心配事を抱えさせたまま旅立たせてしまった。それが、貴夫は残念でならない。 達矢に名古屋での葬儀のことを伝えたのは妻の恵子だった。臨終を知らせる電話を切った後、妻に簡単に説明して貴夫は会社に向かったのだ。帰宅後、達矢も行くと妻に聞かされた貴夫は、えっ! と大きな声をあげてしまった。 「よく行くって言ったな。お前、何か達矢に強烈な勧誘でもしたのか?」 「普通に伝えただけよぉ。私だってびっくりしたんだから。心臓に悪いわ」 「ふーん……」 貴夫は達矢の部屋の前まで行くと、ノックをして中の返事を待ち、ドアは開けずに外からスケジュールを伝えた。 「父さん今からメシ食ってシャワーだけ浴びるから。あと一時間くらいで出発するからさ、それまでに支度して下に来てくれ」 中からくぐもった声が返ってきたのを確認し、貴夫は一階に降りていったのだ。 そして日付が変わってすぐ、父と息子はおよそ数年ぶりに一緒に車に乗り込み、西へと向かって行くことになった。 |
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