まつやま書房TOPページ>Web連載TOPページ>流辺硫短編小説集②「塔」 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
9/13(2010.10.20更新) |
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塔写真撮影者:らら(photost.jp) |
今日だって本当なら、一般道で向かいたいところなのだ。子どもの頃に興奮した車窓を見せれば、達矢に何かしらの前向きな気持ちが芽生えるかもしれない。ほんの少しでも出直しの可能性が生まれるように、家族に好転の兆しがでるように、できることなら頑張りたかった。しかし今や五十代、とても徹夜でムリが利く体ではない。へたにムリをすれば事故など起こし、元も子もない状況になってしまう。そう思って自重したのだ。 この先どうなるのだろう、と暗い車窓は、ハンドルを握り続ける一介の中年男を暗澹たる気持ちに落とし込む。 考えたくはないが、もし、もしも達矢がこれから先も変わらなかったら……。自分は年を追うごとに老けてゆき、体は衰えてくる。いずれ定年の日がやってきて、そうなると経済的にも今より相当きつくなってくる。どんどん動きが取れなくなり、きっとそのとき、今以上に無力感を味わうことになるに違いない。滞りなく生活してゆくことのなんと大変なことか……。暗い車窓は、悪いことばかりを心に浮き上がらせるのだ。 豊田のインターを過ぎる。あと二つだ。予想に反して、休憩一つ取らないで高速道路を降りることになりそうだ。 |
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