まつやま書房TOPページWeb連載TOPページ>流辺硫短編小説集②「塔」
1/11(2010.10.20更新)



塔写真撮影者:らら(photost.jp)


(1)


 後ろの席でなかば寝転がるように座りながら、達矢は携帯電話をいじっていた。寝ようが何をしようが構わない、という約束で連れてきたのだから文句は言えないが、その達矢の様子を見ながら、父の貴夫は心の中でため息をついた。

―話してくれとは言わないが、せっかく久々の外出なんだから、もう少し外の景色でも眺めてくれればなぁ……。

 横浜インターから東名の下り車線に入る。週末だったが予想に反して流れは順調で、ものの数分で厚木インターをすぎた。

 これから夜の間走り続け、名古屋まで向かわなくてはいけない。仕事から戻ってシャワーだけ浴びて、仮眠も取らずに出てきたのだから、できるだけ眠気と疲れが表に噴き出さないように順調に進んでほしかった。とりあえずここまでは望んでいるように進んでいる。

 仕事の後の徹夜運転かぁ、という思いで出発前は気が重かったが、渋滞の気配すらない高速道路は、かえって仕事のストレスを吹き飛ばしてくれる気分のいいものだった。しかし貴夫は眠気の予防線のためにラジオをつけ、缶コーヒーのふたを開け、いつでも噛めるようにガムを内ポケットに入れた。

 その、つけたラジオはニュース番組を流していた。いくつかのニュースを伝えた後、解説のコーナーになった。その日のニュース解説はネットカフェ難民についてで、どうも年配の解説者は若者のふがいなさを前面に押し出した解説を展開していて、貴夫は顔をしかめながら別の放送局に替えた。今この場に、まったくもって相応しくない内容だったからだ。

 進んでいくにつれ、高速道路の周囲からは灯りが減っていった。


◎→次へ◆○