まつやま書房TOPページWeb連載TOPページ>流辺硫短編小説集①「お好み焼き」
1/13(2010.08.30更新)



(1)

 まず、鉄板の下を覗き込み、火が消えていないかを確認する。そして鉄板に薄く油を引く。

 手をかざして鉄板に熱が十分に伝わっていると感じたら、生地の素をおたまに一杯、と気持ちもう少しを、その上に流す。生地は丸く広がってゆき、すぐに湯気をたて始める。長方形の無骨な鉄板は家庭用ホットプレートよりも広く、そのいびつな楕円形が手前三枚、向こう三枚の合計六枚乗せられる。なにも具が乗っていないお好み焼きは、この時点ではまるでホットケーキのような見た目だ。

 あらかじめ切っておいたキャベツの千切りを鷲づかみにし、六枚の生地の各々に、山盛りに乗せてゆく。続けざまに桜エビ、紅ショウガ、削り節を、振り掛けるようにパラパラと落としてゆく。紅ショウガは濡れているので一ヶ所に固まらないよう入念に散りばめ、逆に軽く飛び散りやすい削り節は、極端に言うと置くように、丁寧に乗せてゆく。

 この作業の間に生地は熱で大分固まってきているので、隣とくっつきあってしまった部分を鉄ベラで切って離しておく。

 次に、その鉄ベラで六つの山盛りキャベツの中心をほじくるようにどけ、くぼみをつけてそのスペースに生タマゴを落とし込んでゆく。タマゴは、特に黄身においては、後々完成品の見栄えに大きく関わってくるので、決して片手で割ろうとせず、堅実に両手で作業にあたらなくてはならない。それでも時折は、複雑にからまるキャベツや固まって滑りやすくなった生地の加減で、タマゴがつるりと土俵を割ってしまう。それほど生タマゴを中心に留め置くことはむずかしいのだ。

 これで、具材を乗せる作業は完了。あとはおたま半分程の生地の素を、生タマゴの周りにぐるりとたらす。こうしておくと全体にまとまりやすく、今後の展開が楽になるのだ。

 ここで二、三分小休止を入れる。その後、鉄ベラを再度手に持ち、楕円形の下に軽く差し入れてみる。まだヘラが突っかかるようだったら、下の面が焼き上がっていないということなので、もうしばらく待つ。

 スーッとなんの抵抗もなくヘラが入り込むようなら返し時だ。今度は両手に鉄ベラを持ち、両サイドから差し入れてゆく。そして楕円の下でヘラの先端をカチンと合わせ、できるだけヘラで生地の面を多くフォローするように心掛けながら、手前に向かってひと息にひっくり返す。パタンと乾いた音がし、落としたとき同様にタマゴが中心にあるように返っていれば、成功といえる。

 返したあと、なんとなくお好み焼きをパンパンと鉄ベラで叩きたくなるのが人情というものだが、それは厳禁だ。せっかくの商品を、わざわざ薄く、固くしてしまう手はない。

 ここでも小休止を入れ、時間を置いて再び鉄ベラを差し入れてみる。突っかからなければまたひっくり返す。すでに片面は焼けて固まっているので、今度の返しは簡単だ。少なくとも大崩れする心配はない。どちらの面にも香ばしそうな焦げ目が付けば、出来上がりまでもう一息だ。

 円が真っ二つになるように、どれか一枚をヘラで切ってみる。切った手ごたえ、そして切り口を見る、その二点で、中が生でないかを確認する。中までしっかり火が通って固まっていれば、出来上がりだ。二つ折りにして発泡スチロールの皿に乗せ、ソースを刷毛で塗って青のりをかければ、美味しいお好み焼きの一丁上がりとなる。注文がたて込んでいれば、その他の五枚も同じようにしてゆく。

 マヨネーズはソースのように自動的にかけないで、お好みでどうぞと店頭に置いておくだけとする。割り箸はお客さんに取ってもらう。二本持って行きたい客が遠慮しなくてもいいように、だ。


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