まつやま書房TOPページWeb連載TOPページ>流辺硫短編小説集①「お好み焼き」
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「ちょっとォ、昨日買ったやつ、箸が入ってなかったわよ」

 日曜夕方、これからピークを迎えようかという時、おばさんから苦情を受けた。

 苦情を聞いた瞬間、ここでもやってしまったかと渉は冷たい汗が流れ出るのを感じた。

 しかし考えてみれば、昨日は客との受け渡しは一切やっていないのだと気付き、仲間には悪いと思ったが心底胸を撫で下ろした。

 鉄板の前から直也が威勢よく謝り、おばさんは二、三文句を付け足して去って行った。

「昨日の閉店前ってことは俺だな」

 俊之助が顔をしかめてつぶやいた。

「珍しいじゃねえかよ、トシがさ」

 直也がビールを差し出ながら、意外だな、という表情を作る。三人の中で約束も時間も、一番しっかり守るのが俊之助だったからだ。

「そんなことねぇよ。俺、会社じゃミスなんてしょっちゅうだぜ」

 俊之助の言葉に渉は飛び上がらんばかりに驚いた。

「何年経っても慣れねえし、あの仕事合ってねぇんじゃねえかって、実はすっごく悩んでんだよなァ」

 今まで、互いの仕事のことはほとんど話したことがなかった。が、成る程、自分たちもそれぞれ勤めだしてからかなりの年月が経つ。ちょっとくらい話してみるのもいいかも知れないな、と渉は思った。

―─深夜の会議の時じゃちょっとあれだから、焼肉屋の時にでも、こいつらにぶつけてみるか。それとも銭湯のときの方がいいかな。ゆったり湯船にでも浸かりながら。

 そう考えると渉は、なぜか再び昨日見た伝統芸能を見たくなり、二人に断るとエプロンを外し、人出で賑わう石段の方へと向かって行ったのだった。





「お好み焼き」は今回で終了です。ここまでお読みいただきありがとうございました。
流辺硫氏の次回作は近日更新予定です。