まつやま書房TOPページWeb連載TOPページ>流辺硫短編小説集①「お好み焼き」
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 日曜は屋台の組み立てがないので土曜より少々遅く、昼前に集まり、簡単なセッティングの後に開店となる。開店後は土曜と同じだが、前日と違うのは、日曜の方が気持ち人の出がよく、忙しくなるということだ。だから前日以上に焼いて売りまくる。

 六枚焼いては客に渡し、また六枚焼き……。ずっと前、具に凝って〝イカ〟、〝豚肉〟、〝広島風〟などメニューを増やして金額を上げたが、三人ではまったく手が足りず、翌年からはまたシンプルな一種類に戻した。お好み焼きの専門店でないのでこれで充分と、思いなおしたのだった。

 夜九時、祭りがハネた後の行動パターンも、毎年決まりきっている。まずは片付けで、この日は土曜日と違ってしっかりと片付けるので、全て終えるのは十時半頃となってしまう。祭りは九時までだが、人の少なくなる八時半頃から次第に片付けられるものから片付けをしていき、九時から本格的に撤収作業に移行する。三十分ちょいでワゴン車への積み込みを完了し、直也の家に向かう。次の年までしまい込まれたままになる物は入念に洗い、拭き、直也の部屋の押入れ深くに押し込める。余った食材は直也の家の冷蔵庫に入れ、渉と俊之助が持って帰りたい分は分けてビニールに入れておく。

 そして近所にある、十二時までやっている銭湯に行き、二日間の汚れと匂いを洗い流す。

 そしてそしてお待ちかねの、焼肉屋での打ち上げとなる。大ジョッキをガチンと合わせ、お疲れ! 今年もやったなぁ、と相成る。

 酔いは心地好く、しかも長続きする。その大きな要因の一つとして、就職してからこちら、三人共祭りの次の日には有給休暇を取っているということが挙げられる。サラリーマンにとって、あァ、明日は休みだぁ、と考える瞬間こそが、なにより一番心弾む時間なのだ。

 二時間近くかけて腹を満たしたところで直也の部屋に戻り、会議となる。なんの会議かといえば、旅行のである。なんの旅行かといえば、三人が趣味としているスキーのクロスカントリーの、である。元々三人は、スキーのサークルで知り合った仲なのだ。

 彼らは祭りの売り上げで、冬にクロカンの旅に出るのだ。で、毎年この時間は地図と、あらかじめ取り寄せておいたどこかの地酒と厳選された地方名産のつまみ数点を机に広げ、旅行の計画を練るのを常としていた。

 気の合った者同士の旅行の場合、計画時の方が旅行そのものの楽しさを凌駕してしまう、などとなってしまうことがままあるが、彼らの場合もそれに近かった。もちろん旅行自体も楽しい。しかし渉たちは、この会議の時間が大のお気に入りなのだ。

 祭りの最中、好きでやっていることとはいえ夏の熱い鉄板の前での作業は、つらいなぁと感じるときも多いのだが、そんな時、後で行う旅行の計画会議のことを考えると、再びやる気が漲ってきて、がんばるぞと心の中で鉢巻きを締め直せるのだ。

 旅行は大体年明けの一月か二月で、時には大晦日に合わせることもあった。三人共まだ独り身なので、そんな自由も利くのだ。

 その旅行でも有給休暇を使い、週末にくっつけ、普段の生活とは百八十度違う自然の素晴しい景観を眺め、歩く。そして旅行が終ってようやく、今年の祭りも終ったなぁと感じるのだ。

 渉にとってはつまり、この祭りに関する一連の頭から尻尾まで、全てが楽しみなのだった。

 そしてさらに、単純に楽しいから、という一面の他に、彼にとってこの祭りは気持ちの上でも大きな存在になっている。

 大学を卒業して証券会社に勤めて七年になる。もう新人ではなく中堅と、周りからも見られているし、自分でもそう実感している。学生色は年ごとに薄れていき、今ではほとんど消えてしまっている。しょうがないことではあるけれど寂しくもある。そして比例するように、仕事以外のことがどんどん疎遠になってしまっているのだ。

 遊びや飲みに行く回数が以前と比べて徐々に減っていき、誰か音頭を取る者が出ても集まりが悪く、中々まとまらない。集まっても、勢いにまかせて徹夜に流れることなどなくなってしまっている。しかも学生時代の付き合いがなくなっていくのに、新たに付き合いは増えない。

 そのうち自分もやがて家庭を持ち、さらに付き合いが減り、最終的には会社と家の往復だけの人間になってゆくのかなぁ、などとふと考えてしまうこともあり、そのような時に、この祭りの存在は実に大きく気持ちを支えてくれるのだった。

 なにか仕事以外のことで、友人と一緒に力を合わせて楽しくできるものを持っている。そう考えるだけで、随分気持ちが違うのだ。