まつやま書房TOPページWeb連載TOPページ>流辺硫短編小説集①「お好み焼き」
3/13(2010.08.30更新)



 そして翌日土曜日は、午前十時に直也の家に再び集まる。そして思い切り労働となるのだ。

 車に生モノ、缶ビールなど冷蔵庫のものを積み、祭りの地へと向かってゆく。毎年同じ一角を与えられていて、到着すると車から荷物を降ろして渉と俊之助でセッティングを始める。直也は家に戻って車を置いてから合流する。コインパーキングもあるのだが、夜の九時まで停めているとそこそこの値段になってしまうし、だいいち出直したとしてもたいしたことはない。歩いたって二十分もあれば着いてしまう距離なのだ。

 屋台を組み立て、天幕と暖簾をかける。配線を引いてはだか電球が点くかテストをする。そしてガス台を置いてガスボンベにつなげ、こちらもしっかり点くか試してみる。ガス台がしっかり設置できたら、それに沿って食材や調理器具などを置いてゆく。それでセッティング完了。その頃には既に昼をすぎていて、太陽が真上から照り付けている。まぁとりあえずと、クーラーボックスからロングサイズのビールを取り出し、皆で開ける。汗だくの体にしみる、祭りの最初の一本だ。

「では!」

 と直也が言って、最初の六枚のお好み焼きを作るのが、もう決まったパターンとなっている。温めた鉄板に油を引いて、六つの輪を描いてゆくのだ。

 焼きあがったお好み焼きを、昼飯として各一枚ずつ食べる。あとの三枚は毎年お隣さんになる綿菓子屋に、今年もよろしくと言いながら渡す。

 日が高いうちは客もまばらだ。クーラーボックスや折りたたみ式の椅子に座って、のんきに話しながら時間をつぶす。嵐の前の静けさのこの時間は、三人のお気に入りだった。

 年によって夕立ちがあったり蜂が飛んできたりと、それなりにハプニングがあるが、またそれも夏祭りならではのご愛嬌だ。

 夏の終わりは、暑さが退く前に日が落ちる。夕闇につつまれてからは、焼きに焼き、売って売って売りまくることになる。小さい神社の祭りだが住宅地で人の出はよく、売り上げは毎年、彼らの給料と同じくらいの額となってしまう。

 この暑いさ中によくもまぁ素人の作ったタマゴ料理を、と渉は毎年思うのだが、不思議なことに毎年売り上げは好調だ。普段はホワイトカラーの三人だが、この時ばかりは汗だくになって野外のルーティンワークに精を出す。

 祭りは九時で終わる。土曜の夜は簡単に片付け、それを終えるとその場で解散にする。じゃあメシでも、となってしまうと、そのままずるずると朝方まで、などということになってしまいかねない。事実そのとおりになった年もあり、日曜の売り始めがなんと夕方五時だったのだ。だから土曜の夜は現地解散を慣習としていた。

 屋台は小さく畳んでブルーシートを被せ、ガスボンベや鉄板などの消耗品や盗られて困る物、それと食料品一切を直也の友人のワゴン車に積み込み、直也の家に戻る。ワゴン車の運転手に手間賃を払い、生モノを冷蔵庫に運んだところで初日は完了となる。そこで渉と俊之助は一緒に駅へ向かい、それぞれ別の方向へ帰ってゆくのだ。