まつやま書房TOPページ>Web連載TOPページ>流辺硫短編小説集①「お好み焼き」 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(5) 「ホレ」 「あ、どうも」 小森にビールを差し出されて渉は自分のコップを乾した。失敗を起こして二日後、本社から来た取締役と一緒に、書類をなくしたお客の家に出向いた日だった。 退社後、また小森を見つけるためパチンコ屋に向った。一周して見当たらなかったので、今度は小森行きつけのゲームセンターに向った。そこまでして小森を探す自分が、我がことながら不思議だった。 ―─見つけたらお茶でも付き合ってもらうか。まあ隣でこちらもゲームに興じてもいいし。 華やかなゲームセンターの店頭に足早に突っ込んでゆく。何人かで連れ立ってならともかく、スーツ姿でしかも一人でとなるとちょっと抵抗を感じてしまう。小森はなにも感じないのだろうか。 奥に進むと、すぐに小森の背中を見つけた。画面上の筋骨隆々の男を操る小森は本日も快調のようで、次々に技をかけ、対戦相手のパワーを着実に減少させていっている。 その見事なレバー捌きに、渉は五分程後ろで眺めていたが、小森が気配を感じたらしく、ふっと振り返った。 「おう、ちょっと待ってろよ」 再び画面に向かった小森だったが、次に出てきた巨漢レスラー風のキャラに、連続して技をかけられてすぐにゲームセットとなった。 立ち上がった小森に、渉はすみませんと頭を下げた。渉の姿を見てわざとゲームセットにしたのだ。数秒の間があり、 「そうか、今日行って来たのか」 と通る声で言ってきた。 なにかしら小森の中で合点がいったようで、小さく頷くと、表に出ようと顎をしゃくった。 「メシでも食うか」 「えっ、でも大丈夫ですか?」 小森は既婚者だったので、家で夕食の用意がしてあるんじゃないかと心配して聞いたのだが、小森は違う意味に取ったようで、 「パチンコ出たからさァ、奢るから焼肉でも行こうぜ」 と、スタスタ勝手に歩き出して行ってしまった。 またもやわき上がる複雑な感情。 ―─ホント、いい人なんだな。 と思い、 ─―誰かに見られたらイヤだな。ダメ社員連合かよ、なんて。 とも思う。 そんな渉の気持ちなどまったく考える風もみせず、小森は鼻唄交じりに先導して行く。 |
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次回更新は10月10日(日)予定です。 |
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