まつやま書房TOPページWeb連載TOPページ>流辺硫短編小説集①「お好み焼き」
11/13



(5)

「ホレ」
「あ、どうも」

 小森にビールを差し出されて渉は自分のコップを乾した。失敗を起こして二日後、本社から来た取締役と一緒に、書類をなくしたお客の家に出向いた日だった。

 退社後、また小森を見つけるためパチンコ屋に向った。一周して見当たらなかったので、今度は小森行きつけのゲームセンターに向った。そこまでして小森を探す自分が、我がことながら不思議だった。

―─見つけたらお茶でも付き合ってもらうか。まあ隣でこちらもゲームに興じてもいいし。

 華やかなゲームセンターの店頭に足早に突っ込んでゆく。何人かで連れ立ってならともかく、スーツ姿でしかも一人でとなるとちょっと抵抗を感じてしまう。小森はなにも感じないのだろうか。

 奥に進むと、すぐに小森の背中を見つけた。画面上の筋骨隆々の男を操る小森は本日も快調のようで、次々に技をかけ、対戦相手のパワーを着実に減少させていっている。

 その見事なレバー捌きに、渉は五分程後ろで眺めていたが、小森が気配を感じたらしく、ふっと振り返った。
「おう、ちょっと待ってろよ」
 再び画面に向かった小森だったが、次に出てきた巨漢レスラー風のキャラに、連続して技をかけられてすぐにゲームセットとなった。

 立ち上がった小森に、渉はすみませんと頭を下げた。渉の姿を見てわざとゲームセットにしたのだ。数秒の間があり、
「そうか、今日行って来たのか」
と通る声で言ってきた。

 なにかしら小森の中で合点がいったようで、小さく頷くと、表に出ようと顎をしゃくった。
「メシでも食うか」
「えっ、でも大丈夫ですか?」
 小森は既婚者だったので、家で夕食の用意がしてあるんじゃないかと心配して聞いたのだが、小森は違う意味に取ったようで、

「パチンコ出たからさァ、奢るから焼肉でも行こうぜ」
 と、スタスタ勝手に歩き出して行ってしまった。

 またもやわき上がる複雑な感情。

―─ホント、いい人なんだな。
 と思い、

─―誰かに見られたらイヤだな。ダメ社員連合かよ、なんて。
 とも思う。

 そんな渉の気持ちなどまったく考える風もみせず、小森は鼻唄交じりに先導して行く。





次回更新は10月10日(日)予定です。