まつやま書房TOPページWeb連載TOPページ>流辺硫短編小説集③「雪下ろし」
3/8(2011.1.2更新)



 冬至に近いこの季節は暗くなるのが早く、日が落ち、急速に冷え込むのにつられるかのようにアルバイトたちは家路について行った。事務所にはおれとコータの二人だけとなり、再びコータが五十嵐のことを口にした。

「実際、ヤツが来られないのは大きいですね。正直かなり人数が減っても、あいつがいればなんとかなると思ってましたから」

 再び二人で黙り込む。沈黙を破るためか、コータがさっきみんなに配った菓子パンの残りをおれに差し出す。

「いいよ。コータ喰えよ」

「でも、社長一つも食べてないじゃないですか。喰ってくださいよ」

「ホントいいから喰えって」

「でも……」

 一人だけ事務所に居続けて力仕事をしていない後ろめたさから、おれが遠慮をしていると、コータは思っているらしい。それもあるにはあるが、パンを断る理由は別のところにあるのだ。執拗にパンを勧めるコータに、しょうがなくおれは真の理由を伝えた。

 足を折って体を動かさなくなって二週間、おれはその間に三キロも体重が増えてしまった。元々太りやすい体質ならいざ知らず、おれは成人してから、まったく体重に変化がなかったのだからこれには驚いた。

 つまりは、もう若くはないということなのだろう。代謝機能が落ちて食べたものが体に残り、肉になってしまうということだ。おれはそう認めざるを得なかった。体を動かせない今、食べることを自制しないと、後輩のアルバイトたちにしめしが付かない体型になってしまう。

「もう、三十も後半だからなァ。こういう仕事してると毎日が早いから、自分が着実に歳取ってるのなんて忘れちゃうんだよなァ」

 おれは昼に缶コーヒーを買いに行った件を、続けてコータに話した。

 ブラックのコーヒーが売り切れだった時は、松葉杖でコンビニまで行くのも面倒だし、普通の砂糖入りを買っちゃおうかと思った。しかしその面倒くさいが体重維持の一番の敵だと思い直し、わざわざコーヒーひとつ買うためにコンビニまで行ったのだ。

「なる程。じゃあパンは持って帰っちゃいますね。でもコンビニではラッキーだったじゃないですか」

 ニヤつきながらコータは帰り支度を始めた。普段から、女っ気のまったくないおれの日常をからかってくるのだ。社長をからかうとはなんたる社員だと憤慨したくなるところだが、そうもできない。なにしろ今、なんでも屋を事実上取り仕切っているのは、間違いなくコータなのだ。明日も朝の早い仕事が一件入っているのだが、文句一つ、愚痴一つ言わない。

「悪いなホントに。明日は時間にうるさいところだからなァ」

「大丈夫ですよ。それより誰か承諾の電話があるといいですね」

 からかうかと思うと親身になって心配する。コータには仕事のできる営業マンのような、会話の中に押し引きの妙趣がある。ジャンパーのボタンを上までしっかり留めると、コータは小さくお辞儀をして暗い通りへと出て行った。