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四.敗戦国日本女性の抱くマッカーサー像(3)

その三 「ファザー・チャイルド・リレーションシップ」


 「解放軍司令官」「救世主」「神の座に近い人」、いろいろな尊称で呼ばれたマッカーサーは、再生日本の家長とも見られる側面も持っていました。また日本女性たちにとっては、この上もなく頼りがいのある、理想的な男性とも映っていました。

 さらに日本女性たちのこの心理を強く増幅していた他の面がありました。それは、マッカーサーという人は「超」の字が上に付くほどの美男子であったことです。この編の冒頭でマッカーサーの好男子ぶりについて書いておきましたが、七〇歳の彼を見たジョン・ガンサーは「マッカーサーは素晴らしく男ぶりがいいー疑いもなく現代における最も男ぶりのよい男性の一人であろう」と語っています。ガンサーはお世辞など書く類の人ではありません。

 当時の日本女性たちの、マッカーサーに対する高まった敬慕の念と熱い思い、そしてこれらの情念がさらに熟成していった一部の女性たちがマッカーサー宛に書き送った手紙の中に、分類上「ファザー・チャイルド・リレーションシップ」というのがあります。

 この、「ファザー・チャイルド・リレーションシップ」という関係を持ちたいということは、ラブレターとしては熟成度最高の、ズバリ「あなたの子を生みたい」と表明したものだそうです。

 袖井がこの手紙の存在を知ったのは、彼の知人であるカンサス大学のグラント・グッドマン教授と会ったときでした。

 この歴史家の教授は、占領中占領軍総司令部のG2(情報部)の翻訳担当将校として勤務し、自身もマッカーサー宛に送られてくる日本人の手紙を翻訳していました。  「マッカーサーへの手紙」を書いていた袖井に対し、グッドマン教授はある日袖井に向かって尋ねたそうです。

「ミスター・ソデイ。君は日本女性たちがマッカーサーに 〝ファザー・チャイルド・リレーションシップ〟を持ちたいといってきた手紙が、今どこにあるか知らんか?」

「親子関係を持つというと?」

「つまり、あなたの子を生みたいということさ。ソウハッキリ書いてあったよ」

「それは驚きですね。今までそんな手紙は見たことはないですよ」

いやそういう手紙は何百通もあってね。私も同僚と一緒に大笑いしながら翻訳したもんだよ

 以上の会話が二人の間で交わされました。あの占領時代、このようなことが現実にあったんですね。この種の手紙は特別取り扱いにされていて、袖井をもってしてもいまそれらを見ることはできないといいます。




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