まつやま書房TOPページWeb連載TOPページ>中島茂の点描 マッカーサー>第二章 4




四.敗戦国日本女性の抱くマッカーサー像(1)


その一 焼け出され生死をさまよう女性から

 この、東京世田ケ谷在住の女性から出された手紙は長いので全文を紹介することはできませんが、その要旨は、


 戦争ばかりしている日本がいやになり支那で暮らそうと思い支那に行った。(筆者注。ここで支那というのは当時の満州でしょう)。しかし日本にいる母が病にかかったので母を介護すべく日本に帰ってきた。まもなく太平洋戦争が始まり、家も家財もすべて焼きつくされ、病母を抱えて一時は死をも考えた。一方、警察や軍人の上役のものは、酒、ビールその他食糧を部下に車で運ばせ贅沢をしている。勝つ見込みのない戦争をしたので恨むことはありません。かえって元帥様の大きな愛の心を尊敬しており、数限りなく大勢の日本人はみなそう思っており、負けたのがよかったのです。
 戦争犯罪人の処罰をあなた様の力でなんとしてもやってください。

  以上のような背景と趣旨でこの手紙を書いているうちに、この女性のオクターブはだんだん高まってきます、以下は原文を見てください。

「世界中で一番の主さまが御成り遊ばした元帥様を尊敬します私共 気候の悪い日本の地何卒何卒何卒御身大切に遊ばして何日何日何日までも日本に御出遊ばされます様御祈り申上げます。

 戦いに負けて却って幸福になったとさえ思って居ります。日本に生まれた悲しさ貴国のお言葉でもわかって居りますならばせめて元帥様の御令室の付きアマにでもなって働かせていただきますのに残念ながら御言葉を話せませぬ事とて使って頂くことも出来得ず日本人の悲しい事と存じて居ります。

 せめて部下の方々のお世話等にても使用して頂けたらとさえ存じて居りますそうして私の常に元帥様を尊敬した私の常の気持ちが日本の人々に知られて私の気も安々となります。決して私は悪いものではありませぬ 神かけて申し上げました事で御座います お信じ下されませ ご無礼の数々は何卒何卒何卒御許し遊ばして下されませ 気候の相違して居ります日本の地で定めし御凌ぎ遊されます御不便何卒何卒何卒御身御大切に御自愛遊ばされます事を神掛けて御祈り申し上げてやみませぬ

 日本の国等に最早大臣等他に必要は無いと信じます 御多忙でも世界中の主様であられますマッカーサー元帥様が何も彼も御指命頂けます様御願い申し上げます 大きなお心の元帥様が御計らい遊ばした方が私共は安易な気持ちで一杯で御座います 元帥様の御国ですもの何卒宜敷く御願ひ申し上げます事御聞き届け下されませ 御多忙の御身体に御迷惑な事を示しましたが何卒御容赦下されませ


かしこ

(昭和二十年十月二十日)
マッカーサー元帥様
東京都世田ケ谷区xxxx一丁目xxx
H・K


 戦後生まれの日本人が、いまこのような手紙を読んでもまったく理解できないでしょう。「ナニコレ、どこの国の人?」となるでしょう。それも致し方ありません。あの、空から襲ってきて家も人も瞬時に焼き払われたとき、生き残った人々の恐怖、悲惨さは当事者以外いくら想像してもわかるものではありません。

 彼女は、頼りになる人はいまや世界にこの人しかいないと、全幅の信頼と期待をマッカーサーに寄せて彼女の手紙の結びとするのです。





中島茂の点描 マッカーサーtopページへ