まつやま書房TOPページ>Web連載TOPページ>北関東から競馬がなくなる日3(曠野すぐり)・ | |||||||
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宇都宮競馬場(d) 2011.9.20 |
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(4) 第九レースが終わり、いよいよ最後のレース、平成十六年度とちぎ大賞典のパドックとなる。このレース、本当は去年の大晦日に行われるレースだったのだが、雪で中止になって今日の代替となったのだ。 馬券は四枠トウショウゼウスからにした。人気はなかったが、足利のラストでドキドキさせてもらった、返礼馬券だ。 それにしても、パドックには人垣ができてチラチラとしか馬を見られない。ここでこんなことを味わったのは初めてだ。月曜日なのに、皆、最後の日に足を運んだのだろう。ま、俺もその一人だ。会社には床屋の友人の結婚式ということにしてあった。 ファンファーレが鳴り、ついに北関東最後のレースがスタートされた。周りで泣いている者につられ、俺も急に胸が締め付けられる。ロックミュージシャンは感動屋なんだよ。あ、もうミュージシャンじゃないか。 レースはまずトウショウゼウスが先頭に立った。俺の買っている馬だ。 北関東の競馬場に通いだしておよそ六年。なんとなく六年前を思って物悲しさがさらに募る。仲間もたくさんいて、了子もいて……。 一周目、俺の前をトウショウゼウスが先頭で走り去って行く。コースが小さいのでちょっとした距離だと二周することになるのだ。 六年はあっという間だったなァ、と思う。これからの六年もあっという間だろうか。この六年は俺にとって激動だったが、これからの六年もそうなのだろうか。 向こう正面、まだトウショウゼウスが先頭だがリードはほとんどない。脚色は後ろから迫ってくる他馬の方が断然いい。 ふと、中団にいるヤマニンバリーに目が止まる。騎乗する内田利雄騎手は三千勝という恐ろしい数字で有名だが、異色なことにライブ活動なんかも行っているのだ。大変な仕事をしているわけでもないのにギターを投げ出してしまった俺にとっては、まったくもってうらやましいし、頭が下がる。かくなる上は、せめて貯金だけでもやり遂げねばならない。 三コーナーで早くもトウショウゼウスが下がっていく。逃げ馬がこうなっちゃおしまいだ。しかし俺は、自分の馬券なんかどうでもよかった。昨年の三冠馬フジエスミリオーネを先頭に、次々ゴールに駆け込んでくる馬と騎手に、拍手を送っていた。 どうして二千勝や三千勝といった類稀な腕を持った連中が職を失わなくちゃならないんだ。これは断じておかしい。 最後の表彰式では勝った平沢騎手が笑顔を浮かべていた。俺は以前、足利で平沢騎手のTシャツが当たったことがあるので、さり気なく応援していたのだ。 さまざまな挨拶が終わり、足利と同じように馬場が開放された。ぞろぞろと入ってゆく。 馬場は足利の時のようにぬかるんでいなかったので、足を進めやすかった。高崎が降雪中止だったので、廃止自体は悲しいものの、全レース完了して終れたことには心からよかったと思った。 騎手たちが、一人一人に丁寧にサインしている。俺ももらいたかった。もらって握手してもらって、数年間楽しませてもらって本当にありがとうとお礼を言って、できることなら騎手を続ける道を模索してほしいと訴えたかった。 だけどやっぱり照れくさくて、結局その場を離れていった。 あの騎手たちのほとんどは、自分の腕と同じように動かせるムチを置いて、他の仕事に就くことになる。こんな、まったく冴えないアマチュアの俺だって、ギターを持たなくてしばらくは虚脱感に襲われたんだ。あの、深夜スタジオに入るときの高揚感、ライブのときの緊迫した雰囲気、メンバーたちとの喫茶店でのたわいないおしゃべり。もうそういったものが味わえないのかと考えた時の、言いようのない寂しさ。 たかが趣味を、それも自分から捨てた俺ですらそうなのだ。プロとしての技術と誇りを身にまとっていた彼らの心境など、とても推し量れたものじゃない。 ところで、もし俺にギターのテクニックがあったら、きっぱりやめられただろうか。仕事も生活も中途半端、ミュージシャンへの道もどんどん細くなっていく。それでも、おそらくはやめられなかったんじゃないだろうか。多分ズルズルいっちゃうような……。だとしたらもし今後、やりたいことが見つかってそれがうまくいったとなった場合、その遠因としては俺がギターが下手だったから、となるのだろうか。人間万事なんちゃらだなぁ。 俺は西日を浴びながら、しばらくラチ沿いを歩いていた。そして、やっぱりサインをもらおうかなと思いながら、再び騎手たちの方へと戻って行った。 「今まで本当に楽しませてもらいました。できることなら、また騎乗する姿をどこかで見たいです!」 まるで俺がさっき思っていたことを騎手に言っている奴がいて、ちょっと驚いてそいつの顔を見てやろうと振り向いた。そしてさらに驚いた。その男が金太郎だったからだ。 「お前、何やってんだよ!」 |
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