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足利競馬場(5) 2011.1.16


(4)


 二〇〇三年 三月三日


 今、小山駅にいる。どんよりとした寒い日で、ペンを持つ手がつらい。が、持たなければいけない。ペンを滑らせ続けなければいけないのだ。十五冊目で初のライブ日記なのだから。

 ここから両毛線に乗り、足利競馬場に向う。今日は足利競馬場が五十三年間の歴史に幕を下ろす日だ。足利競馬場は今日この日をもって廃止となる。俺が愛した競馬場のその記念すべき日に、月曜にも関わらずわざわざ足を運んで来たってわけだ。仕事を休んで。

 今、地方競馬はどこも大赤字で、いくつもつぶれている。大分の中津、新潟の三条、島根の益田。そして足利だ。他にもぞくぞくあとに続くだろう。

 まあ、いずれそうなるとは思っていた。数々の地方競馬に行った俺の目から見て、足利の寂れようは上位の方だったからだ。三条に行ったときは足利より寂れていると思ったが、やはり先につぶれてしまった。足利以上に小さくて交通の便も悪いのだから、当然といえば当然だ。中津と益田は東京から遠すぎて足を運んだことはなかったが、その寂れ具合は噂には聞いていた。ようは足利に順番がまわってきたということだ。

 俺が思
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 両毛線に乗り込んだので、前の行が書きかけになってしまった。まあ仕方ない。これもライブならではのものだ。

 車内の薄汚れたジャンパー姿二人は競馬場に向かう客だろう、と思っていたら、栃木駅で降りて行ってしまった。それにしても車内に人が少ない。府中開催の南武線並みとはいかなくても、もう少し混み合っていてほしい。だけどまだ分らない。足利競馬場は車で行く方が一般的だからだ。駐車場だって広々としている。現に俺も電車で来たのは今日が初めてなのだ。だから現地はもっと盛大かもしれない。そう期待しよう。人込みの嫌いな俺だが、さすがに五十三年間のフィナーレが閑散としてちゃ、寂しすぎるってもんじゃねえか。

 そう言えば一人で来たのも初めてだ。最近めっきり俺の周りをうろつくお友達が少なくなってしまった。それでもせっかく記念の日だからと計二十三人に誘いをかけたのだが、当たりはたったの一人。山本という一つ下の独身男だが、これが無口で退屈な奴なのだ。皆で集まっている時のその他一員だったらいいのだが、二人だけとなるとちょっときつい。ほら、パーティーのオードブルなんかで誰も手を付けない得体の知れない料理。あればスペースも埋められるし、ないよりはマシ。そいつはそういう存在なのだ。だから俺はやんわりとそいつを断って一人で行くことにしたのだ。

 皆、もう落ち着いてしまって中々家から出なくなった。断られた二十二人の中の早田とのやり取りが象徴的だ。



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(2011.1.25更新予定)
※『北関東から競馬がなくなる日』は曠野すぐり氏が新風舎にて刊行した
同書名著作物を改訂したものです。