まつやま書房TOPページWeb連載TOPページ>人生ぶらぶら散策記(沖田数馬)第十七話
(2011.5.30更新)



転居


 6万1千円→5万3千円→3万円。

 世の中のデフレにあわせたように、私の生活水準も落ちてきた気がしないでもない。

 6万円1千円は管理費込み。川崎に居た頃で、バリバリ「会社員」をやっていたときだ。5万3千円は秩父へ来たとき。西武秩父駅至近で、駐車場の料金は無し。そして3万円のいまのアパートである。

 間取りは六畳と四畳半(両方とも畳)、台所・トイレ・風呂である。下見に行ったときに驚いた。

 「土足で上がっていいです」

 と不動産屋さん。

 ともかく荒れ果てている。襖は破け、風呂と台所のつなぎ目あたりのコンクリートに穴が開いている。台所もかなり汚れていて、幸いにも2部屋隣のリフォーム中の業者が見にきた。

 「これはひどいですねえ。台所は全部取り替えだな。風呂の下回りも水が漏らないように防水しなくちゃ…」

 リフォームしてくれることになった。ちなみに築40年とのことだ。周囲に同じ不動産屋が管理するアパートがあるが、明らかにこちらのアパートだけ「暗い」というか、昭和にタイムスリップだ。

 約3週間経った頃、リフォームが完了したとの連絡が入った。鍵を預かって見にいくと、畳や襖、台所や風呂のほとんどが綺麗になっていた。日当たりも最高で、冬季でも昼間は暖房が要らないほどだ。武甲山から連なる山並みが見えるのが素晴らしい。


 さあ、引越しだ。転入の二日前ほどに再訪して、各戸にあいさつをした。といっても不在や空き部屋も多いので、会えなかった方には粗品をポストに入れておいた。


 引越当日は荷物の開封と片付けで終わってしまったが、段々と明らかになってきたことがあった。


 まず、テレビを見ることができない。これはお隣さんが、「これ、テレビのアンテナ線なのだけど、前の人がNHKの受信料は払わないって切ってしまって…」と、途中で切れたアンテナ線を見せてくれたので分かった。これは不動産屋に相談してアンテナ線を新規に引いてもらうことになった。

 いちばん困ったのが「隙間」である。ドアを閉めているのに北風が台所と居間の間の戸を鳴らす。よく見ればドアの下に5ミリほどの隙間があって、外の光が見える。新品のドアならやらないが、これはガムテープで覆うようにした。お隣さんが「ついでにドアも替えてもらえばよかったのに」なんて言っている。

 エアコンが残置物として残っているのは助かった。しかしフィルターをみると、真っ黒だ。いや、普通のホコリなら灰色だが、本当に真っ黒なのである。これは丁寧に水洗いをし、乾燥させてセットした。エアコンクリーナーを1本持っていたので、それで金属部分は洗った。しかし、空気の吹出口の回転する部分がどうしても掃除できない。これはあきらめたが、前の住人は犬と猫を数匹飼っていたという。神経質になればキリが無い。


 そうこうしているうちにトイレの電球が切れた。窓がない内側にあるので、「的」を外してしまった。一刻も早く電球を取替えねば…。





続く
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