まつやま書房TOPページ>Web連載TOPページ>人生ぶらぶら散策記(沖田数馬)第十四話 | ||
(2011.4.30更新) |
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介護実習 前回のスクールの話で「実習」について触れていなかったので、ここに書きたい。 実習場所は秩父を希望していたが、スクールが所沢にあることもあって、職員も実習先のスケジュールに苦慮していると思われたので、所沢付近でいいとの希望を出した。実習は「施設・デイサービス・訪問」と分かれていて、スクールの演習とは違い、現場でしか体験できないことを学ぶ。またスクールで教わった基礎と現場ではどれだけの違いがあるのか確認する、という意味もある。また態度不良で追い返されてしまうと卒業ができない。卒業テストみたいなものだ。 「施設・デイサービス」は小手指からバスで10分ほどの施設に決まった。もうこの頃になると通うのも慣れてきたので、朝起きる苦痛はなくなっていた。 初日の夜は眠れなかった。睡眠薬を飲んでいるのだが眠れない。ちょっとまどろんだ感じで朝を迎えた。小手指駅が近づくにつれ腹痛がきた。申し訳ないが身障者用のトイレで落ち着き、バスに乗った。 実習先の担当者は親切で、はじめは「~を手伝ってください」と指示を受けながら利用者との対話と声かけを重視しながら、入浴の着脱をしたり、配膳やレクリエーションのお手伝いなどをした。昔の介護は利用者が「お世話になっている」という感じであったと思うが、いまは違い、利用者の意志が尊重される。車椅子の速度も「スピードは速くないですか?」などと声をかけ、不安にならないように配慮する。常に利用者の立場と目線になって接することが大切だ。 ある認知症の利用者さんがいた。車椅子のブレーキレバーをガチャガチャやるので、何の意味があるのだろうとスタッフに聞いてみたら、前は女医をやっていて、マニュアル車が大好きだったとのこと。傍から見れば何をやっているんだ、ということになるが、やっていること全てに意味がある。またその利用者は私の手をつかんだとたん、私の腕に涙した。これには参った。利用者さんって可愛い! 書道の時間があった。手が不自由だったり認知症の方も奔放に書く。書道の先生がまた素晴らしい。否定をすることなく、全てを褒めて認める。「習字ではなくて書道ですからいろいろな書き方があっていいのです。~さん、このバランスがとても面白いですね」 私はその書道の先生に感銘を受けてしまい、実習で来ていることを話し、大変勉強になったことを御礼した。 しかし何よりも学ばせてくれたのは利用者さん達だ。どう御礼をしようか迷っていたが、スタッフから「昔の役者さんが出ている時代劇にはすごい興味がある」とのことなので、廃棄しようと思っていた時代劇のビデオをこっそり進呈することにした。 |
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続く | ||
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