まつやま書房TOPページWeb連載TOPページ>人生ぶらぶら散策記(沖田数馬)第十三話
(2011.4.20更新)



西武池袋線・秩父線


 西武秩父線は吾野~西武秩父間であるが、列車の運用上や乗客への案内としては飯能からがそう言ってもいい。車両も2ドアのセミクロスシートを使用していて、トイレも付いており、料金を取らないという点では、京急の快特に次いで、東武で使われる快速列車と同様のサービス水準だ。これで毎日通勤できたら…と思っていたら、現実にそうなってしまった。

 失業している間、給付金付の職業訓練を調べていたら、介護の課程をみつけた。幼稚園でボランティアをやった経験もあって、面白そうだと思った。ハローワークに相談して所沢のスクールに決定した。

 西武秩父から所沢まで片道で約1時間半。我が家のドアからスクールの教室にたどり着くまでは2時間だ。うつ病は治りつつも朝は相変わらず苦手である。しかも不規則な生活を送っていたから、規則正しい生活の訓練にはいいかもしれないが辛いことは間違いなさそうだ。

 西武秩父7時2分発の飯能行。これが通学列車となった。実はこの列車は秩父鉄道の三峰口からやってきて、長瀞からの列車を横瀬で連結し、8両運転となる。

 駅のホームに15分前に着くと、もう先客が並んでいる。新聞紙を広げてスーツ姿なので通勤客だろう。列車が到着する頃には長い列が出来ていた。

 列車がやってきた、既に数人の乗客が乗っているということは、三峰口方面からの需要がある証拠である。空いているボックスシートに座る。直前に飛び乗って座れないということはない。ただ暗黙のルールがあるのか、1つのボックスに2人だ。慣れた乗客は「先の天気」が分かるらしい。発車時点ですっきりしない空でも左側のブラインドをすぐに下ろす。正丸トンネルを過ぎれば日差しがまぶしい、ということだ。

 都会の友達曰く「綺麗な景色をながめながらうらやましいですね」といわれる。確かにこの沿線の景色は山の中を走る路線なので、春夏秋冬の山や山里の景色を愉しませてくれる。しかし毎日の通学となれば話は別で、睡眠不足も手伝って、ずっと眠っている。

 高麗を過ぎてしばらくすると飯能の市街地で、東飯能の到着寸前で、下りる準備をすべくドアに並ぶ。飯能で反対側に停車している列車の座席を確保するためだ。池袋行の電車に座るとまた眠たくなってきた。所沢から先、乗り過ごさないようにせねば。

 
 「西武秩父線」というタイトルなので、個人的な見どころを紹介しておきたい。

 西武秩父線の正式な区間は先に記したとおり吾野~西武秩父であるが、その歴史が駅舎やホームの屋根で分かる。武蔵横手や東吾野がそうだ。線形も川沿いに蛇行している。吾野から先は新しい区間なので、トンネルや鉄橋が多くなり、直線部分が多い。

 武蔵横手にいるヤギの「そら」と「みどり」。これは草刈のためにいる。このあたりのコスモスもきれいだ。

 吾野の集落。赤銅色のトタン屋根の木造家屋が並んでいる。特に雨に濡れた屋根が美しいと感じる。

 最後に「正丸トンネル」。建設当時は私鉄最長であり、トンネル内に交換設備がある。つい最近になって「正丸トンネル信号場」という駅名標が退避する側のトンネル壁面につけられた。交換待ちでここに停まれば駅名標を見ることができる。

 新緑から紅葉まで、季節の移ろいを感じさせてくれるのはいうまでもない。




続く
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