まつやま書房TOPページ>Web連載TOPページ>人生ぶらぶら散策記(沖田数馬)第十話 | ||
(2011.3.20更新) |
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生き延びる作戦 生活資金も底をついてきた。どうしよう。 消費者金融だけは嫌だ。収入がないのに返せるはずがない。 「アルバイトをやればいじゃない?」と親切にも言ってくださる方がいるが、学生時代ならともかく、次の就職までのアルバイトというのはあまり考えられない。アルバイトとはいえ、採用者は長く働いてくれることを望んでいる。就職活動中はいつ面接が入ったりするか分からない。「就職先が決まったので辞めます」は失礼だ。私が採用担当者だったら、そういう腰掛目的の人間は雇いたくない。 いちばん痛いのが家賃である。これは市役所に相談して手続きのうえ、家賃の助成制度を使うことになった。こちらも就職活動の義務が発生し、ハローワークなどに通わなくてはならない。給付されるものなので生活保護の家賃相当部分と考えて良さそうだ。上限額が自治体によって違うようだが、私の場合、差額が11500円になった。 次は年金だ。全額免除。 その次は「うつ病」などの医療費である。通常だと3割負担だが、精神医療の場合は“自立支援医療制度”というのがあって市役所で手続きをすれば1割負担になる。睡眠剤から抗うつ剤まで数種類の薬が処方されるので、これはかなり助かる。 気になる生活費だが、社会福祉協議会の生活支援制度を利用した。もちろんそれだけでは足りず、家にあるあらゆるものを売り払うことにした。蔵書がかなりあったが、古書店にまとめて売り払って半分以下に。コレクション品もヤフーオークションに出すことにした。武田信玄の絵皿に買い手がつくか。自営業開始のときに購入した住宅地図。価格を低めに設定したがなかなか売れない。 そうやって整理をしているうちにJRで使える未使用のオレンジカードが出てきた。川崎まで月1度の通院をしているので、JR部分はこれで何とかいける。やった! 車に乗らなくなったせいか、皆野寄居有料道路の回数券も残っている。これは地元の金券ショップに持ち込もう。 「何とかなるだろう」と思っているだけでは駄目だ。生き延びるためには売れるものは売り払う覚悟が必要だ。このヒントは『武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 』〔磯田道史〕(新潮新書)に隠されていた。この本はもちろん「売らなかった」本である。鯛の絵を描いて我慢することはできないが、夕食はコンビニエンスストアの弁当から野菜の煮込みになった。 |
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続く | ||
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