まつやま書房TOPページWeb連載TOPページ>人生ぶらぶら散策記(沖田数馬)第六話
(2011.1.30更新)



苦手なもの二つ


 秩父で嫌というか苦手なものが二つある。春の「芝桜」と冬の「夜祭」だ。どちらも秩父の観光の代名詞だ。


 芝桜。我が家の前の道路が西武秩父駅と、芝桜がある羊山公園の最短経路となっている。ということで休日ともなれば一方通行の道を大勢の観光客が行き交う。知り合いから「ホームセンターで芝桜を仕入れて売ったらどう?」とまで言われる。


 困るのが車の出し入れである。クラクションを鳴らせば「秩父人はうるさくてせっかち」だと思われかねず、マイナスイメージを与えるだろう。事実そんな気はするのだが。ともかく危ないので、観光客がいれば日中でもライトを点灯する。


 芝桜のどこがいいんだ。絶対に見ないぞ! と思っていたら、高校の恩師が見たいとのことで案内をした。実際にきれいだったが、所々で「禿げ」がある。つまり芝桜が咲いていない場所が… 観光パンフレットはよくできているものだ。


 秩父夜祭。これも駄目だ。2日の宵宮はまだよい。観光客もほとんどいなくて、屋台曳きを見ることができる。屋台曳きのお兄さんたちは、みんなガタイがいい、体育会系マッチョな連中ばかりだ。普段、こういう人は街中で見かけない。いったいどこにいるんだろう。


 問題なのが3日の大祭だ。観光客で溢れ返っているので屋台は前日に見て、当日は出かけない。問題なのはその日に行われる打ち上げ花火である。


 その花火、我が家の裏山(羊山)から打ち上げるのだ。轟音というか、「ひゅぅぅ~ドドドン!」という爆音が襲撃してくる。もうこうなると雨戸を閉めて耳栓で耳を塞ぐしかない。耳栓をしたら電話にも出られないだろうと思うが、焼夷弾の音(体験はないが)で声はかき消されるであろう。窓ガラスがビリビリ振動するほどだ。これが夜10時まで続くからたまったものではない。


 知り合いがいろいろ言う。

 「あの音がいいんだよ、秩父らしくて」

 「あそこに住んでいるとは、よほどお祭りに寛大なんですね~」


 翌日、近所の郵便局の係員に轟音の話をすると「それはそれは大変でしたね… 初めてならなおさらですよね」と慰められつつも、爆笑が巻き起こった。一年間住んでみないと分からないものだ。

 来年は「避難」を検討している。



続く
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