まつやま書房TOPページ>Web連載TOPページ>人生ぶらぶら散策記(沖田数馬)第四話 | ||
(2011.1.10更新) |
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面接で必ず聞かれること 自営業が頓挫したので、就職活動をすることにした。始めは正社員にこだわっていたが、そうもいかず、パートやアルバイトも受けてみた。 必ず聞かれる質問が「なぜ秩父に居るの?」である。履歴書に「千葉県立~高等学校卒業」と書いてあるからだ。社会人になって転職をしたが、東京や神奈川でこのようなことを聞かれたことはない。 「なぜ秩父に居るの? ご実家は?」 「実家は千葉県です。秩父へ来たのは秩父が好きだからです」 「好きなだけで思い切ったことをしたもんだねえ」 「はい、映画で『草の乱』というのがあったと思いますが、私はあれを観て以来、秩父に通うようになりまして、エキストラの方々との交流が深まり、秩父に住みたいという気持ちが一層強くなったのです」 こう正直に打ち明けざるを得ない。なかには失笑する面接官もいる。面接自体は和やかなムードで終わる場合が多いのだが、不採用になることが多い。 企業側から考えれば当然だ。秩父から出て行く若者のほうが多いのに、単身転入してきたのである。警戒するだろう。しかも動機が不純だ。 へたに「秩父に親戚がおりまして…」などと言ったら大変なことになる。千葉と秩父の親戚について説明することになるし、「親戚はどこにいるの?」という質問も予想される。秩父地方は面積が広いわりに「狭い」土地柄である。「影森にいます」などと答えれば、影森のどのあたりか聞かれる可能性がある。嘘が罷り通らない土地柄でもある。 面接が社長室だった事業所があり、映画監督のサインが飾ってあったので監督の話をした。すると「何で監督とそういうおつきあいがあるの?」と、だんだん話しがややこしくなってきた。 「我が社も若手がエキストラで出ているんですよ。沖田さんも出たのですか?」 「いえ、映画を観てからなんです」 「つまり映画がきっかけなの?」 「はい。エキストラの方々と交流するにつれて監督ともお会いするようになりまして、先日は監督を囲んで新年会をやりました」 妬みかもしれない。履歴書はそのまま返却されてきた。 |
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続く | ||
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