まつやま書房TOPページWeb連載TOPページ>人生ぶらぶら散策記(沖田数馬)第三話
(2011.1.2更新)



自営業顛末記


 秩父に仕事があまりないのは重々承知で、自営業を持ってきた。宗教用具の洗浄サービスのフランチャイズ。秩父はほとんどの家に仏壇があるから沢山仕事もあるだろうと思っていた。

 まず近所に営業をして、それこそ山奥の細い道をたどって小さな集落にも行った。断られるのは慣れているが、意外とある要望が「神棚」だった。要望といっても「できるのかい?」と聞かれる程度で、冷やかしだ。秩父ではダメだと思い、寄居や児玉、毛呂山や飯能といった八高線沿線も営業した。

 広告を出した。反響は、狙いどおりの仏壇が1件、神棚の修理が1件、金箔を貼ってほしいというのが1件であった。秩父の地域広告に3回、本庄と深谷を含めたエリア1回の広告でこの程度だ。仏壇の洗浄は喜んで出かけ、お客様も綺麗になった仏壇にびっくりされていた。神棚の修理はさすがにできず、お断り。賭けに出たのが「金箔貼り」だった。

 これはある宗教法人の建物の看板で、金箔がはがれたのでスプレーをかけてしまい、変色した部分を貼りなおしてほしいというものだった。さすがに自宅に入らない大きさで、本部に価格を相談。はじめは高い価格を提示して「本部と交渉しているので」と私が折衝努力をしているふりをした。「高い価格」の半額以下にしたのだが、見事に失敗し、受注できなかった。

 葬儀社とも提携をした。葬儀社のチラシに広告を載せてもらったり、チラシを置いてもらったり。私のフランチャイズは仏壇も売ることができるので、商売敵である仏壇屋に聞いてみた。

 「秩父にはそういう需要がないのでやらないんですよ」


 地道にやるのがいちばんだと、車を走らせ営業もしていたが、ホームページも開設した。しかし問い合わせがあったのは広告会社ばかりだ。


 「○○社です。お墓の洗浄、いまの時期忙しいでしょう。高崎に○○さん(元プロレスラー)が来るので、是非一緒に写真入りでインタビューさせてもらえませんか」

 「それは幾らかかるの?」

 「10万円のところ、いま5万円でサービスします」

 広告会社ではないのだが、結局は広告ではないか。しかも何でこちらから高崎までおカネを払って出向かなければいけないんだ。アホらしいにも程がある。

 「SEO対策」というのだろうか、ホームページが検索で上位に来るようにするという会社から電話があった。契約をして確かにキーワードを打ち込めば上位に上がるようになったが、仕事依頼は依然としてなし。

 
「アクセス数が向上すると言っていたのに、全然来ないじゃないか」

 「アクセス数を保証するものではありません」

 「リンク先からの効果も見込めます、とありますよね」

 「契約書には記載ありません」


 はあ~ 騙された。あくまでも個人とはいえ事業主なので、消費者契約法は使えない。しかもその代金を迂闊にもクレジットで分割払いをしてしまった。弁護士相談にも行ったが、難しい案件とのことだった。


 成功している代理店もあるので、フランチャイズ本部が悪いのではない。「漁場」が悪かったのだ。金仏壇なら素人が掃除できないので儲かるのだが、唐木仏壇は丁寧に磨いている家庭が多く(訪問してみると実際にそうだった)、光り輝く仏壇もあった。廃棄寸前の汚い仏壇なら説得力があるが、そういう仏壇にはお目にかからなかった。もちろん本部に支払った契約金は戻らない

 もっとも仏壇は家具同然で、家具屋でも売られている。家具に数万円もかけてピカピカにしようと思うだろうか。艶出しするので新品同然に蘇るのがウリだが…

 秩父の男性はたいてい「てえしたもんだ、いい仕事だ。職人だ」と言ってくださるのだが、女性は「おカネをかけてまで…」という意見が多かった。

 
 財布はたいてい「おっかあ」が握っている。 


続く
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