まつやま書房TOPページ>Web連載TOPページ>北関東から競馬がなくなる日(曠野すぐり)最終 | |||||||
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足利競馬場(11) 2011.2.25 |
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いやァ見たくない。四コーナーから直線で、まだまだお若いのには負けんよとばかりにサンエムキングがトウショウゼウスを交わそうとしているのだ。脚色は明らかに十一歳馬の方がよい。競馬ファンは何故金を払って見たくもないものを見せられるのだろう。 直線、もう一頭の人気馬レザーネックも巻き込んで、三頭で競り合っている。そこへ外から、地方競馬にあるまじき猛烈な追い込みを決めたのが、なんとこれも我がシンボリメロディー。叩き合う三頭を一瞬で交わしてゴールイン。足利最後の勝ち馬だ。 俺の足利最後の馬券は一着四着だった。残念だがここで取り返すことはもうできない。俺は馬券が折れないように財布の中にしまった。収集癖のない俺だが、これだけは持っていようと思ったのだ。 二着は同順だった。配当は安くなるが的中者が増えるのでそれもまたよかろう、と俺は回転を止めた頭でぼんやり思った。最終レースの終った競馬場で西日に当たるこの数分間は決まって深い虚脱感で、なにも考える気がしなくなる。もっとも今日は曇っていて陽射しはなかったが……。 小便をしたら少し活力が戻ってきたので俺は表彰式に向かった。 おォ、表彰を受けてる調教師はなんと長島茂夫ではないか。初めてここに来た時は、彼、まだ騎手だったのだが、競馬新聞を見て驚かされたのが懐かしい。桐生競艇の小林旭と共に、予想紙の名前だけでガツンと印象を与えてくれた人なのだ。 そのあと市長が挨拶に出てきて、場内を罵声がつつんだ。俺もちょっとだけ加わる。一声だけ。それに値する金も落としたし、散々足も運んだ。決して一着四着のすさんだ気持ちからの一声ではない。 最後の最後にビックリするサービス。なんと馬場に入ってもよいと言うのだ。 やっぱり来るもんだなァと思いながらダートの上に足を踏み入れる。ぬかるんでいて、泥だらけの靴にも構わず俺はダートを踏みしめまくった。 あァ、終ったなァ。俺は意味もなくそう思った。他のファンたちはゴール前やゲートにかたまり写真を撮ったりしていたが、俺は人の少ない方へ少ない方へと足を向けて行く。雨も降り出した三月初めの北関東の河川敷は、体の芯を冷やす。それでも俺は、終わった終わったと心の中で呟きながら飽きることなく歩き続けた。 山前駅でかなり待って両毛線に乗り、行きとは反対に前橋へと出る。そこから高崎線で大宮に向かう。 と、ここまでは高崎駅で書き上げた。これからあとは、電車の中で書いている。 高崎からは、高崎線に乗らなかった。ふと思いつき、八高線に乗り込んだ。気持ちが、マイナーな方へと流れて行ったのだ。 八高線に乗って十分後に、駅を出た。ディーゼルの音と共にゆっくりと、出て行ったのだった。そして一駅過ぎると高崎線と離れ、暗い単線を、ひたすらトコトコと走って行くのだった。 |
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─ 了 ─ | |||||||
「北関東から競馬がなくなる日 足利競馬場」は今回で終了となりますが、 「北関東から競馬がなくなる日」シリーズは続いていきます。 近々掲載予定ですので、引き続き同シリーズの応援よろしくお願い申し上げます。 |
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※『北関東から競馬がなくなる日』は曠野すぐり氏が新風舎にて刊行した 同書名著作物を改訂したものです。 |
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